Seasonの軌跡

Seasonの軌跡

■2011年 にんにくの栽培をスタート

「にんにくは儲かるぞ!」甘い言葉に流され、はじめて自分たちで栽培をしてみることに。農家さんを手伝い、にんにく栽培を少しだけかじったこともあり、あまり不安は無かった。

「買ってくれる相手を見つけて、値段を決めてからだな」そんなことを考え、

「量はいくらでも買う。1,000円/㎏」という相手を見つけて、自信満々でのスタートだった。

今考えると恐ろしい話だ。規格という視点が抜けているし、そもそも1,000円というのが妥当な金額かどうかもよく考えていなかった。農家さんが言っていた参考価格を提示しただけで、コスト面を熟考しての価格決定ではなかった。

「10aで15,000個が植わり、20個で1㎏として750㎏・・・75万になるな」

「にんにくは獣害もなく定植したらほとんど放置で、1人で40aはできるから・・・8か月で1人300万・・・悪くないな」

そんなとらぬ狸の皮算用。

結局は30万弱と見込みの半分もいかなかった。

乾燥段階でのロス(約20%)さらに1,000円で売れたのは20%で、残りはB級、C級扱いとなった。

・気づき

「ロス率や生産コスト等も考えて妥当な販売価格を決定する必要がある」

「品質向上、ロス率低減(販売方法も含め)させていくことで利益率をあげないといけない」

「にんにくの根は綺麗にくりぬかないといけないという常識を疑う」

・改善

ネット販売に切り替える。規格をA級 L M B級 L M バラとし、価格も2300~3000円/㎏とした。

顧客開拓に時間がかかったが、全国におよそ300人ほどのお客様を獲得する。

BtoCでは顧客対応にタスクを割かれ、当時の売上規模では割に合わないと判断、柱となる売上がある中で取り組むと面白いビジネスにはなるだろうと思いながら、2016年で一度栽培を中断。2019年から再開予定。

■2012年 露地トマト栽培をスタート

露地放任栽培で作る調理用トマトに出会う。「露地10aで100万は上がる」という話。栽培期間(収穫は約50日、定植から60日ほどで収穫開始)も短く、にんにくとの作業的な相性の良さも考慮して栽培を開始する。

にんにくの失敗もあったので、複数の販売先を確保し、最終的な受け皿として全量全規格一定価格での買取をしてくれる会社とも契約をしてのスタートとなった。

・気づき

「飲食店等にも出荷し、商品の評価は良かったものの、露地栽培なので天候の影響が大きく、計画栽培の難しさを実感することとなる」

「満足いくだけの売上を目指すには規模が必要で、短期間(約50日のみ)過ぎるが故に労働力の確保も難航」

「全量買取の契約をする場合、相手の会社の体力をしっかりと確認する必要がある。」

・改善

商品は魅力的なもので、お客様からの評価も高い。しかし、労働力確保の観点からも他に収穫期間(キャッシュの入ってくる期間)が長い作物と並行して栽培することとする。

露地ではどうしても運任せの栽培になってしまい、安定した生産ができないので、ハウス栽培ができるようになるまで2015年をもって一時中断。2019年より再開予定。

■2014年より万願寺とうがらしの栽培を開始

価格決定権にこだわっていたが、規模も小さく他を圧倒する栽培技術もない中で、しっかりと売上をあげていくためにどうするかを検討した結果、JA出荷へと方向を転換する。

そして、価格決定権がない中では規模をこなす方法を模索していくことになった。

万願寺とうがらしは収穫期間が非常に長く(露地で6月末~11月いっぱい)比較的病気にも強い。我々が知る限り露地でも環境の影響を比較的受けにくい作物である。

収穫期間が長く、労働力の確保をして規模を拡大することで、先のにんにくやトマトも栽培を再開していくことができる。そうすれば、自分の頑張りのみに支えられた農業ではなく、組織として展開していける農業も見えてくる。

そんな期待に胸を膨らませてのスタートとなった。

とは言っても、いきなり人を雇ってというのはリスクが高すぎるということで、まずは自分たち2人だけで栽培をしてみることに。

JAはじめ関係機関の話では、1,000株が限界ですよとのことだったが、失敗しないと、より規模拡大するときの課題が見えにくいだろうと判断し、1人1,200株の計2,400株を栽培することとした。

結果はまったく手が回らず、予想通り大失敗。一日に15時間くらい作業をしても後手後手に回ってしまい大変な一年となった。

・気づき

「家族や友達が手伝いに来てくれた時には当たり前だが収穫量は上がる」

「栽培技術や防除・除草など他にも様々な課題はあるが、労働力(収穫の手)があれば回るんじゃないだろうか」

・改善

将来を見据えた場合、労働力を確保することで経営が成り立つのか検証してみる価値はあるとの判断から、2015年はwwoofを利用し、3名のフランス人に来てもらうこととする。恥ずかしながら、栽培技術や品質向上はこの時点では2の次であった。

※wwoofとは、お金のやり取りのない、人と人との交流。「食事・宿泊場所」と「力」そして「知識・経験」を交換する。

■2015年 万願寺とうがらし栽培2年目

1年目に2,400株で大失敗をしたが、短期間(150日の栽培期間中、40日間来てもらった)とはいえ3名の力を借りられることもあり3,000株に拡大。人をかけてやる中での万願寺とうがらしのポテンシャルを計ることとなる。

結果はまたまた失敗。彼らがいなくなるとたちまち手が回らなくなり苦労することとなった。

・気づき

「当然だが、人手がある時にはしっかりと収穫できる」

「素人である彼らの1時間あたりの収穫量を見ていくと、価格決定権は無い取引ではあるが、過去のデータと照らしても悪くない数字(人件費はペイできる)だった」

「wwoofは働くことを目的に来ているわけではないので、働くことをモチベーションに収穫期間中ずっと労働力があれば、これは面白くなりそうだ」

・改善

彼らのようなパフォーマンスを発揮してくれる人で、働くことをモチベーションとして収穫期間中いてくれる人材としてワーキングホリデー制度を活用し、3名の台湾人に来てもらうこととした。日本人と同じだけ人件費はかかるが、動き次第で人件費はペイすることは検証しているので、挑戦しない理由は無かった。

■2016年 万願寺とうがらし栽培3年目

3名の台湾人が収穫期間中ずっといてくれるということもあり、4,800株に規模拡大。

労働力を確保することである程度安定出荷はできるであろうとの見込みを持ち、収量のアップと品質向上にむけた取り組みもスタート。産地では右に出る人はいない第一人者に師事し、何か疑問があればすぐに質問というやり取りをさせていただいた。

3年目にしてようやく生産者らしく自信の持てるものを出荷していけるようになった。売上も飛躍的に伸び、ワーキングホリデーと農業の相性の良さを強く感じた。

・気づき

「大切なのは労働力と水」

「農繁期にいかに労働力が確保できるか」

「2年目までは灌水設備を整えられない場所で栽培していたが、そもそもそのような場所では栽培するべきではない」

・改善

作業効率を上げるため、圃場を集積した。

新規就農者でも生活していけるメソッドを作るために

1人の農業者でワーキングホリデーを活用してある程度の規模で栽培していく最適規模はどれくらいなのかをさぐるためにさらなる規模拡大を試みることとなる。

■2017年 万願寺とうがらし栽培4年目

どれだけの人数でどれだけの株数が最適規模なのかを探るため、さらなる規模拡大に挑戦する。10人(台湾人9人、香港人1人)に来てもらい8,000株を栽培する。目標収量には少し及ばなかったものの大幅に売上を伸ばすことに成功する。

・気づき

「人員を増員するタイミングは非常に難しい、収穫期前半が人員不足、後半が人員過多となった」

「成果報酬制度が必ずしもモチベーションアップに繋がるとは限らない」

「収穫期前半に株への負担を最小限におさえることでまだ伸びしろがある?」

「作業効率を考えて利益率をあげていくことを意識していかなければならない」

・改善

増員のタイミングを前倒しし、初期の株への負担を軽減する。

成果報酬ではなく、タイミングをみてBBQやスポーツ、食事等のイベントを実施する。

作業性を考えて一条植えからチドリ植えに変更し、面積あたり株密度をあげる。

また、畔も広く確保し収穫作業の効率化を図る。

定植時の時短方法や選別の時短を可能にする収穫方法等、細かな部分も修正をしていき利益率の向上を図る。

■2018年 万願寺とうがらし栽培5年目

植え方を変更したことで同一面積での株数の大幅増が可能になったので、14,000株にまで拡大。計14人(台湾人13人、香港人1人)のスタッフに来てもらい過去最高の売上を目指すと共に、1人で1日に300株の管理をできる栽培管理方法の確立も目指した。

※過去4年間の実績をふまえ、1日に1人300株を管理することができれば、新規就農者でも生活していけるメソッドが見えてくると考えている。

2018年は7月初旬に9日間におよぶ長雨とその後は災害レベルの猛暑(連日40度近く)と干ばつで、生産が非常に苦しい年となった。

売上は昨年より微増したものの、資材費や人件費等のコスト増がひびき、大幅な減益を余儀なくされた。

・気づき

「仕立て方や剪定方法を改善していくことで1人で1日に300株の管理は可能」

「猛暑、干ばつの影響でこれまでに経験のないタイミングで実の変色が多発。もっと早い段階で着果負担の軽減に努めるべきだった」

「日光による日焼けも多発、露地においても時期によっては遮光が必要」

「さらに売上増を考えた場合、万願寺とうがらし以外の作物も栽培する方が確保している労働力を有効に使える」

「個人の感覚に頼らない、絶対的な選別基準の必要性」

「毎年経験を積んでいく熟練スタッフの必要性」

・改善

剪定方法の習得や収穫適期の実の状態が判断できるようになるには、それなりの時間と経験を要する。従って、相当期間一緒に作業する必要がある。

少し余裕をもった実働部隊の確保が必要となる。

経験値が無かったことによる対応の遅れに関しては、経験値をつめたという点において非常によかった。次に同じことを繰り返さなければ良いだけの事。

高温過ぎて土壌から水分がほぼ吸えていない状況下においては、カルシウムや微量要素等も一緒に葉面散布することも有効。

露地ではあるが7月中旬から9月中旬くらいまでは遮光対策をする。

どうしても余剰人員が出てくる時期があるので、にんにくとトマト(ハウス)の栽培を再開して労働力の有効活用で売上アップも目指す。

選別のスピードを重視しすぎるあまり、人によっては著しく精度が落ちてしまうので、木枠を使って絶対的な基準に照らして選別を実施する。

いわゆる正社員雇用についてはハウス栽培をスタートし、およそ1年間(1月以外)作業がある状態で収穫期間が延び、高単価時期に出荷可能な状況を整えることで検討する。

■2019年 万願寺とうがらし栽培6年目

ハウス3棟の建設 株数はほぼ横ばいの13,000株とする。
人員は常にワーキングホリデースタッフが6名いる状況を整え、実働部隊7名で、1名を指導兼ユーティリティプレイヤーとする。

1人で1日に300株の管理をしていく独自の栽培管理方法の有効性を確認し、来年度以降 希望者に対しては積極的に伝授していくことを目指す。

ハウス栽培の進捗状況次第では2019年中に1人の正社員雇用を目指す。

露地栽培で6月末ころから発病(軟腐・黒枯れ・斑点細菌)8月中旬には約10,000株は収穫できない状態になってしまう。

ハウス初年度にしては想定以上の収穫量となるも、露地の大コケを賄えるはずもなく収入保険にたよることとなる。

・気づき


「建設1年目のハウスは後手にまわる」
「植物にとって理想的な環境に近づけることで、病気の発生を抑えることにつながる」
「絶対的な選別基準を導入したことで、規格落ち率等は劇的に改善したが、一本一本丁寧に確認しすぎて、選別時間の大幅な増になってしまった」
「春に前年度のWHスタッフが戻って来てくれたこともあり、作業や、新しいWHスタッフへの指導がスムーズに進み、熟練工の大切さを実感」
「特に露地栽培において、物理的な改良の重要性とともに管理作業の見直し」
「農薬散布量や希釈の際のスケールの精密性」
「摘芯、摘果等の栽培管理方法の最適化」
「収入保険の有効性」

・改善

定植の間際にならないとハウスが完成しないので、排水やハウスの特徴は栽培していく中で把握し改善に取り組んでいくこと、数年かけて環境を整えていくことを折り込んでいく。

木枠自体は有効、同時に木枠のみに頼らないよう感覚を磨いていくようにトレーニングする。

熟練工をとして正社員を迎えるために、もっと生産を安定させる必要がある。露地栽培での遮光を一部導入したが、素材が適さずに失敗。

地中25㎝ほどの箇所に硬盤層があることがわかる。サブソイラで破壊する。
管理作業(主枝選定や脇芽剪定、敵芯等)における傷からの病気感染リスクを減らす。定植方法の変更でハサミを入れる作業を減らすこと、天候を見ながら管理作業を行うことを徹底する。感染リスクの高い雨天時に配慮した管理をする。


q農薬を下限値以下の散布量しか撒いていなかったり、農薬量を図るスケールの誤差が大きかったり(数グラム少ない)して、せっかくコストと労力をかけていたのに、思うような効果が得られていなかった。農薬は基準散布量を散布し、スケールはデジタルに変更。

生育ステージにもよるが、摘芯・摘果等の栽培管理作業の落としどころを調査中。時期によっては1人300株の管理ができない。

 

■2020年 万願寺とうがらし栽培7年目

コロナの影響もあり、予定していたWHスタッフが入国できないという波乱の幕開けとなる。これまでは検討するも取り組んでいなかった日本人スタッフの募集をかける。

株数は大幅減の9,500株。

ハローワークやその他様々な求人媒体を通じて、日本人14人と香港、台湾から各1名のスタッフを確保。

総出荷量も大幅に伸び、病気等へのアプローチも成功。

露地に有効な遮光資材も見つかり、次年度に本格導入していくこととなる。

 

・気づき


「ハウス栽培において初期の温度管理、施肥設計が非常に重要」
「露地だけでなくハウスにおいても1条植えでいい。コスト削減」
「採用コストも含め人件費が大幅増 人員配置の最適解わからず」
「管理作業の頻度や方法における病気リスクの低減」
「露地おける遮光資材の導入で、焼け果対策とスタッフの作業効率向上」
「CO2の有効性とハウス内環境の見える化の重要性」

・改善


施肥設計において土壌分析はしていたものの、窒素量が多すぎて花落ち、灰カビの誘発、主枝がやられるという悪循環になってしまった。元肥料における窒素量の最適化をする。

株数をスケールさせていく上で、いかに管理作業を最低限におさえていけるかを考えた場合、1条4本仕立てが有効。株数をおさえて主枝本数の増加を進めていくことで苗コスト削減にも繋がる。

コロナで先行き不透明な中、とにかく人数を集めた結果人件費が重たかった。が、来年以降も来てくれるスタッフの確保にも繋がり、熟練工に育てていける可能性も見えてきた。

また来年以降、WHスタッフが来れるか分からないことも考慮し、正社員を2名(元WHスタッフ)雇用することとした。大幅な経営面積の拡大(ハウス1230㎡→4600㎡・露地4500㎡→7000㎡)が可能になったこと、来年度以降も今年来てくれた日本人スタッフが来てくれること等が決め手となった。

人員配置の最適解を探るべく、来年は15,000株に対して日本人4人、WHスタッフ4人で回してみることとする。管理作業等の見直し必須。

露地の遮光資材の有効性を確認できたのは大収穫。来年度は全面設置する。また試験区では体感温度も全く違い労働環境の改善にも繋がった。

ハウス内環境の見える化に取り組んだ。温度・湿度・CO2濃度等データ収集し活用する。CO2はシーズンを通して約1.3倍の増収に、閉鎖空間では約1.5倍の増収に繋がった。が、閉鎖空間にすることで病気のリスクも上がるため、施用方法は要検討。